少し前の、NHKのクローズアップ現代で、女性アスリート、特に、長距離ランナーの方々に多い疲労骨折が、エストロゲン低下により、骨密度の低下を招いた結果であることが非常に多い、という内容の放送をしていました。
これらの方々は、エストロゲン低下により、無月経状態であることが非常に多く、その原因は、体重減少、激しすぎる運動の継続にある、とのことでした。
トップランナーだった、土佐礼子選手も、現役時代の12年間無月経状態だった、と告白していました。
また、それらをケアするべき医療者も、その事実に無頓着な例が多い、とのことでした。
具体的には、無月経で婦人科を訪れても、疲労骨折にまで思いをはせる婦人科医は非常に少なく、また、疲労骨折で整形外科を訪れても、無月経にまで思いをはせる整形外科医は非常に少ないのが現状、とのことでした。
この無月経と疲労骨折の問題は、いわゆるトップアスリートだけの問題ではなく、高校生ランナーなどにまで蔓延していて、「無月経が当たり前」と考えている選手も多いようでした。
こんな馬鹿げたことがありましょうか。
それによって生計を立てるプロならまだしも、その後大事な長い人生が待ち構えているアマチュアの若い人までが、一時の勝ち負けにこだわって自分の体を痛めつけてまでスポーツをする。
本当に馬鹿げている、と私は考えます。
当院にも、高校球児や高校サッカー選手が体の各所の痛みを訴えて来院されることがありますが、いずれも、コンディショニングが全く十分にできていません。何しろ体がみな硬いので、「ストレッチはしていないのか?」と問うと、あえて禁止しているところもあり、専ら、ウエイトや実戦練習ばかりであることが多いようです。
「そんなんで、皆大丈夫なの?」と問うと、皆あちこち痛みを抱えながらプレーしているとのことです。
ストレッチに関しては、近頃のスポーツ界(アマチュア界)の風潮として、かえってよくないという一種のはやりみたいなものがあるようですが、その是非に関しては、40歳を迎えても、なお世界のトップで怪我なく活躍している、イチロー選手を見れば、一目瞭然でしょう。ストレッチの虫みたいな彼も、元々体が硬かったからストレッチを始めた、ということです。
一方、晩期は怪我に泣かされた清原選手がパワトレに凝っていたのは、偶然の一致とは思えません。
私の個人的見解では、モビリティー(柔軟性)があってこそのスタビリティー(安定性)、いや、モビリティーこそがスタビリティーを産む、と考えています。
それは、先日のソチオリンピックでも証明されていたと思われます。
上位選手は皆、モビリティーに優れていました。
パワトレを否定しているわけではなく、硬いバランスの悪い体のまま、パワトレを行うことは、かえって体のゆがみを助長し、怪我や痛みの元になる、と考えているのです。
ちなみに、ストレッチは単なる筋肉をゆるめるだけのものではありません。
ストレッチは筋骨格バランスを整える調整法なのです。
中高生の一時期に、短絡的に勝負に拘って十分にコンディショニングをしなかったアスリート(トップアスリートもどき)の方々がその後、20代~30代になってから、体の主に痛みなどの不調を抱える方をいやというほど見てきました。
繰り返しになりますが、中高の一時期の短絡的な勝負に拘った練習で、その後の長い人生で痛みを抱えて生きることのないよう、しっかりとしたコンディショニングを徹底する必要がある、と考えます。
体を犠牲にしてでもスポーツをしたい、という気持ちも理解できますが、ごく一部のプロ選手を除き、その後の人生には、スポーツよりももっと大事なこと、大切なことがたくさん待ち受けています。
もっと広く長い視野で人生というものを見通す必要があるのではないか?と10代アスリートの方々を見て、よく思うのです。