全身の連動性

足部の重要性

スポーツ界での足部に関する注目すべき最近のトピックスといえば、ランニング時におけるアキレス腱に対する知見です。

あの有名すぎるウサイン・ボルト選手やマラソンにおいて2時間3分台で走る世界トップレベルの選手全員が、前足部接地で、アキレス腱を使う割合が非常に高いことがわかりました。

前足部から接地するのは、短距離での走り方で、今までの日本の長距離界において常識だった「踵からしっかり着地しましょう」という考えが、根底から覆る話です。

とくにマラソンの場合、日本では古くから、つま先で跳ねるような接地の仕方は、足への負担が大きくマラソンには向いていないとされてきました。

しかし、最新の知見では、踵接地だと、かえって床反力は大きくなり、大腿四頭筋などの筋活動も高い、つまり、脚全体への負担が大きく、動作としての効率もよくない、と結論されたのです。

それに対し、世界トップレベルの選手達が行う前足部接地では、踵接地に比べ床反力が小さくなり、脚への衝撃が少なく、また筋活動を効率よく働かせることができ、かえって前方への推進力が高くなることもわかっています。

筋力を使っていないのに、どうやって推進力を生み出すのか?の答えが「アキレス腱」です。

つまり、筋肉の使い方という観点だけでなく、いかに筋活動の中の「腱」の比率を高めてランニングにいかすかを考えるべきだ、ということです。

この考え方を、トプアスリートだけでなく、全ての人にも当てはめて考えてみると、いかに普段の生活において筋活動だけにたよらず、腱や骨を最大限に活用して活動することが、こり・痛みを発生させないことにつながるか、というヒントがみえてきます。

つまり、筋肉だけでなく、腱や骨(つまり関節)の柔軟性や耐久性を高めることや、筋活動のみに頼らない姿勢制御や歩行などを、普段の活動や運動の際に意識してすることで、こり・痛みのない生活を達成できるのではないか、というヒントが隠されているのです。

治療においても、筋肉だけでなく、もっと表層の皮膚・筋膜、もっと深層の骨・関節も意識して、トータル的に三次元的に考えて施術する、ということが大切である、ということがみえてきます。

トレーニングにおいても、トレーニングといえば、筋肉を鍛える「筋トレ」か、心肺負荷をかける「有酸素運動」しかないかのような一般的な考え方がありますが、常々言っているように、「ストレッチ」も立派なトレーニングであり、ただ単に筋肉を伸ばすものではなく、靭帯を含めた関節をゆるめたり、強くしたりする作用があり、自分で自分の関節機能を調整する「自力整体」そのものなのです。

話を「足部」に戻しますが、足部は言うまでもなく人体の土台となる部位で、すべての活動、パフォーマンスに連動する部位だといえます。

足部の機能を高めることで、スポーツ領域では、速く走る、というパフォーマンスのアップだけでなく、メカニカルなストレスも減らすことで、ケガの予防との両立が可能となってくるし、アスリート以外の一般の人でも、肩こり・腰痛をはじめ、身体のこり・痛みから解放される大事な部位が、足部、なのです。

ここで大事になってくるのが、足部のアーチです。

足部のアーチは、横、内側、外側アーチで構成されていますが、アーチは単に高ければよいというわけではなく、荷重に対して「しなる」ように弾まなければいけません。

つまり、アーチの構造的な高低だけを問題にするのではなく、「アーチの機能的な力」=「アーチ力の促通」という考え方が必要になります。

足部のアーチは、従来、内側縦アーチが注目されてきて、インソール、タオルギャザー、チューブトレーニング、ストレッチ、と相場が決まっていますが、海外のボディーワークにおけるエクササイズは近年より進歩してきています。

具体的には、足部のアーチ力を促通するためには内側縦アーチではなく、外側縦アーチと横アーチをつくろうという考え方です。

実際に地面と接しているのは、外側と前足部であり、その地面に接地している部分の支持性がなくなると、内側縦アーチは必然的に崩れるということです。

足部のアーチ機能を高めるために非常に重要な役割を果たしているのが、外側縦アーチを構成している「立法骨」です。

母趾から出ている短母趾屈筋や母趾内転筋斜頭線維は立方骨に付着しており、内転筋横頭線維と短小趾屈筋にてトライアングルを形成しているため、母趾球荷重においては、立方骨に作用しその安定性に関与しているということがいえます。

立方骨は外側縦アーチの要であり、歩行周期におけるアーチ全体の起点となっています。

この立方骨にしっかりとしたモビリティーがあることと、関節機能不全(いわゆる骨のズレ)がないことが重要になります。

外側縦アーチ、横アーチが促通されると、機能的なアーチ力が形成され、自覚的にも、つま先立ちがしやすい、足の裏が分厚くなったといった感じがするなどの感覚が出てきます。それまでペタペタしていた感触が、弾むようになる感じです。

そうやってできた正しい足のアーチによる、コンマ何秒の緩衝が、立ち直り反応や平衡反応を誘発するきっかけとなり、それが効率よく次のモーションへと連動していく、つなぎの役割を果たしています。

そうなることで、当然、アスリートであれば、パフォーマンス向上、ケガの予防になりますし、一般の人でも、こり・痛みの少ない身体を実現することができるのです。

たとえば、ケニアをはじめ、アフリカの選手のように、小さいころから素足で生活するような環境であれば、自然と理想的なアーチをもった足になるでしょう。しかし、日本人の生活はそうではないため、日本人は、足部のパフォーマンスを高めるためには、もっと個別に足部のアーチ機能を高めるようなエクササイズを積極的に行う必要があるといえます。

アスリートに限らず、一般の人でも、この足部の機能低下が誘因となって、身体各所のこり・痛みを誘発しているとかんがえられます。

近年、書店で、足首を回したり、足指を広げたり伸ばしたりすることが健康につながる、といった内容の本を多く見かけるようになりましたが(ほとんど購入しますが)、このことも、いかに足部が人体に影響を与えるかという認識が、理学療法士や治療家やトレーナーに認識されてきた証であるといえます。

すべての運動連鎖(人体の各部位の連動)は「歩行」に帰結する、といえます。

つまり、「歩く」という基本的な動作を行うために人体の各部位は存在し機能している、と考えることができます。

だからこそ、その歩行の始まりである接地を担う足部を注意深くみていく必要性があるのです。

足を構造的にみた場合、踵が非常に重要な部位となります。

とくに距骨下関節の役割が大変重要になります。

たとえば、距骨下の内外反が1°違うだけでパフォーマンスは全く変わります。

距骨は筋肉の起始・停止がまったくない骨なので、非常に自由度が高い骨であるといえ、この距骨をいかに垂直に保つ、正常に近づけるかということをかんがえる必要があります。

距骨の位置が正常に正されると、下肢の支持性が安定し、歩きやすくなります。

アスリートでは、運動としてのパフォーマンスも向上し、ケガの予防になりますし、一般の人でも、身体各部位のこり・痛みの軽減に役立ちます。

運動連鎖的には、距骨と踵骨は、別々の運動連鎖をもっていることが多く、距骨は膝と連動し、踵骨は股関節と連動している場合もあり、逆の人もいます。

いずれにせよ、距骨を意識して荷重するのと、踵骨を意識して荷重するのとでは、運動連鎖がまったく変わってきます。

理想の足部とは、距骨、踵骨、どちらに荷重が乗ろうが、下肢全体が対応できる機能をもっていることが理想になります。

サッカーで、「この選手はボールが持てる」人、というのは、このような人は、距骨、踵骨、どちらの荷重でも、どのような荷重状況においても、繋がりを持って全身が対応できている、ということです。膝や股関節が連鎖的に動いているのです。

ガンバの宇佐美選手などは典型的な例で、彼の「ウニュウニュドリブル」はこの連鎖が非常にうまく機能しているのです。もちろん彼は、背骨の柔らかさにも定評があり、結局、人体の中心である腰椎4番・5番をはじめ全身の連動性が優れているといえます。

本田選手のいかにも硬い動きやボールの持ち方と比べるとその差がよくわかると思います。

人間の身体の各部位で、重要でないところなど、何一つないといえますが、足部を中心に考えた場合、足部の荷重状況に対して、連動する全身の自由度の選択肢が広いということが、アスリートであれば、パフォーマンスを発揮する上で非常に重要になってくるし、一般の人においても、いかに身体各部位のこり・痛みのない身体を実現するかに非常に重要となってくる部位が「足部」ということになります。

余談になりますが、鍼灸施術において、「本治法」と呼ばれる上下肢の肘から先、膝から先、に施術することが治療の一番基礎で大事な方法と考えられていますが、足部、そして今回は言及していない手部の動きに影響を末梢から入力し、全身の連動性を賦活する、という意味が込められている、と、個人的に解釈しています。

当院での鍼灸施術においても、この本治法は採用していますが、私個人としては、このような観点に基づいて全身の連動性を高めるという目的を持って施術しています。(そのほか、脳・自律神経に影響を与えやすい部位である、という別の観点からも施術しています。)

 

 

岡山県津山市下高倉西824

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  • この記事を書いた人

院長 大門信一郎

OKはり灸マッサージ院長。 はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師の国家資格有。 体のゆがみと自律神経を整える鍼灸師。 鍼灸治療の他、痛くない整体や、心地よい力加減のマッサージも好評です。 なかなか良くならない症状にお悩みの方の力になれれば幸いです。 【OKはり灸マッサージ公式サイト】 岡山県津山市下高倉西824 TEL.0868-29-3909 休業日◇月・金・祝日

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