腸脛靭帯炎は、狭義のランナー膝、と呼ばれる、ランニングによる代表的な膝の障害です。
腸脛靭帯は、大腿筋膜張筋と大殿筋の付着部より続き、大腿部外側を通り、脛骨外顆に停止します。
大腿筋膜の厚くなった、筋でもなく腱でもない索状物です。
膝伸展位で屈伸軸の前方に位置し、屈曲位で後方を通過します。
膝の屈伸運動を繰り返すことによって、腸脛靭帯と大腿骨外側上顆で摩擦が起こり、滑膜あるいは滑液包に炎症を起こし、痛みを発生させます。
腸脛靭帯炎は、中長距離ランナーに好発します。
最近は、マラソンブームにより、一般のランナーにもよくみられます。
腸脛靭帯炎は、内反膝(O脚)や、走る際に、小趾側に過重し過ぎて、足部の回内を強めてしまう傾向のある人に認められることが多いです。
腸脛靭帯炎になる人は、静的および動的アライメントに問題を抱えている場合が多いです。
腸脛靭帯炎は、ランニングなどの、同じ動作の繰り返しで発症する場合が多いですので、運動中の動的アライメントに異常があるまま運動を続けると、このような障害につながってしまう、といえます。
腸脛靭帯炎を発症している人は、片脚立ちや、片脚スクワットを行う際、体幹が傾いたり、回旋したりしてしまうことが多いです。
これは、腹筋(特に腹横筋や腹斜筋)や殿筋(特に大殿筋や中殿筋)などの、体幹筋の収縮が不十分な場合に起きる現象です。
したがって、腸脛靭帯炎の予防および再発防止のためには、腹筋や殿筋などの体幹強化を行うことで、体幹を安定させ、下肢に余計な負荷をかけないフォームを身につけることが重要になります。
また、大腿四頭筋(特に内側広筋)の筋力不足が腸脛靭帯炎の原因であることも多いです。
内側広筋の筋力が弱いと、膝蓋骨が外側に偏位しやすく、膝蓋骨と大腿骨外顆の間に摩擦が起こってしまうことで、腸脛靭帯炎を発症させてしまうこともあるのです。
その場合は、内側広筋の収縮を促すことが大切になります。
腸脛靭帯炎の治療として、鍼灸治療やマッサージが施されることは非常に多いですが、こういった、「なぜ腸脛靭帯炎を発症したか?」「どうしたら再発させずにすむか?」というところまで踏み込んで、臨床推論しながら施術にあたることが非常に重要で、ただ痛みを取ればいい、という治療姿勢では、スポーツ選手を診る治療家としては、不十分と考えていますので、常にできるだけ全体、大局を見通す心構えが大切だ、と思っています。
これは、スポーツ選手を診る時だけでなく、一般の方の、あらゆる部位のこり・痛みの治療においても、何ら変わることのない大切な心構えだと考えています。
単なる「痛み取り屋」になることなく、これからも、「なぜ?」「どうして?」、というところからしっかりと臨床推論しながら施術にあたれる治療家目指して、日々勉強を続けていきたい、と考えています。