コアスタビリティ(体の中心部の筋肉の安定性)が弱まると、身体機能の不具合をまねく
コア、という表現は、1982年、リチャード・H・ドミンゲスの「Total Body Training」という著書で初めて提唱されました。
身体の中心部の筋肉に対してつけた名称です。
コアが動的に安定していれば、パフォーマンスは効率的になる、と提唱しました。
このコアの安定性(スタビリティ)を、コアスタビリティといいます。
動作における体幹の役割は非常に大きく、その機能が低下すると、「不安定な」動作となり、日常生活やスポーツ活動において、様々な障害の原因になっていると考えられます。
近年、体幹トレーニングがブームになり、一般の方にも定着してきています。
私は、個人的には、人間の身体において、
- 可動性
- 安定性
- 協調性
この3つがそろえば、痛みない身体を手に入れられる、と考えています。
コリや痛みに、コアスタビリティが関係していることも
日々の臨床において、様々な症状を持った方を施術させていただいておりますが、基本的に、この三つのどれかが機能していないために、我々のような治療院を訪れることになる、と考えています。
その中でも、コアスタビリティの機能不全により、こり・痛みなどの不快な症状を呈している例が、かなり多いのではないか?と考えています。
運動やコンディショニングやトレーニングなどの、自助努力だけでは、どうしても解決できない問題があるので、他力的な施術を日々実践させていただいておりますが、そこに、自助努力も加われば、さらに改善するであろう方も多いのも、また実感するところです。
体幹筋は、機能的には、「インナーユニット」と、「アウターユニット」に分類されます。
インナーユニットは、深部体幹筋によって形成されるいわゆる腹腔です。
アウターユニットは、比較的表層の筋により、運動を制御し、体幹と上下肢をリンクさせて運動のバランスを制御する作用を担うシステムと言えます。
姿勢改善・ケガ防止・パフォーマンス向上のためには、インナーユニットとアウターユニットが共に機能する、いわゆる、機能統合が重要です。
アウターユニットの筋群が活動に加わる前提として、十分なインナーユニットの活動が必要です。
上下肢が運動する直前に、腹横筋は既に活動を始めています。
腹部は、構造的に不安定なため、安定性(スタビリティ)が求められますが、構造的に安定している胸郭(肩甲骨含む)と骨盤(股関節含む)は、反対に、可動性(モビリティ)が求めれれます。
また、近年注目されているのが、大脳を中心とした中枢神経系の関与も考慮した、「モーターコントロールエクササイズ」です。
筋肉を鍛える、というより、筋肉の活動を制御している神経システムを活性化させるという考え方に基づいたエクササイズで、非常に有効と考えられています。
筋力さえあれば腰痛にならないのであれば、プロレスラーや力士の腰痛は説明できませんが、この理論であれば、十分に説明可能なのです。
良好なコアとは、安定した骨盤帯と、そこに関与する下肢と上肢帯の筋群が効率良く機能している状態です。
安定した骨盤帯とは、腹横筋が必要分の収縮を行いつつ、腰方形筋、腹斜筋、広背筋、肋間筋、が機能し、骨盤~下部体幹が機能的な状態になっていることを意味します。
下肢は、この安定した骨盤帯を基に、腸腰筋、殿筋群、ハムストリング、内転筋、などの股関節周囲筋の働きにより、股関節が骨盤にコントロールされつつ機能することが大切です。
上肢帯は、特に、広背筋、僧帽筋下部線維、を中心とした肩甲骨周囲筋により、良好に肩甲胸郭関節が体幹に対して安定した状態で機能することが大切です。
これら筋群の効率的な出力のための特に必要な要素は、
- 胸椎の回旋可動
- 広背筋・僧帽筋・肋間筋の柔軟性
- 股関節の屈伸・回旋可動性
などが考えられます。
また、隣接筋間の良好な滑動性も、コアを安定した状態に保つ大切な因子です。
上肢では、上腕三頭筋、棘下筋、三角筋、広背筋、下肢では、縫工筋、内側広筋、内転筋群、腸脛靭帯、大腿二頭筋、外側広筋、大腿筋膜張筋、の間の滑動性が大切です。
非効率な運動に陥っている動作では、運動連鎖の破綻により、エネルギーの伝達を阻害するとともに、何らかの障害を来すことが多く、運動連鎖の破綻の結果、過剰、異常に活動している筋・関節は、筋疲労や関節可動域制限が生じ、こり、痛み、運動機能障害、が生じることとなるのです。
これらの障害の原因として、コアの機能不全が大きなウエイトを占めることが非常に多いのです。
筋疲労がコアの機能低下をまねく
良好な状態のコアが機能低下を来す要因は、疲労です。
大腿外側や股関節周囲筋群が疲労しはじめると、その代償として、腰背部の筋群を使うようになり、ストレスが腰部や上肢帯に及び、腰痛、肩こりなどを発症するのです。
ですので、施術においても、肩がこる、腰が痛い、という場合においても、まずは、下肢から施術することで、まず身体の土台部分の機能低下にアプローチすることが非常に大事で、有効な施術となります。
鍼灸領域で、いわゆる、「本治法」という、上下肢末梢にアプローチする根幹治療の意味は、おそらくこういった意味も多く含んでいると私は考えています。