頭蓋下顎機能障害(CMD)とは、いわゆる顎関節に問題がある状態で、ひらたく言えば、顎関節症のことです。
側頭下顎機能障害(かみ合わせ症候群=TMD)と呼ばれたり、コステン症候群とも呼ばれていたこともあります。
頭・肩組織の機能連携におけるシステム的な疾病で、極めて多くの要因によって、その症状が発現する状況が生まれるため、CMDの原因を究明する作業は困難です。
CMDは、唯一の独立した原因から発生するというより、むしろ、さまざまなカテゴリーに属する要因がCMDの発生に関与していると言えます。
CMDの病態生理
CMDの病態生理を考えるとき、主に、咬合・筋肉・関節の三つの不具合から考えると整理しやすいです。
これに、神経を付け加えると、さらに分かりやすくなります。
ここからは、CMD患者さんが発生し得る症状について見ていきます。
CMDってどんな症状?
顎の症状
CMDで、まず症状が現れる代表的な部位が、顎関節です。
障害の種類、および関与する構造に応じて、
顎関節に発生しえる症状として、
- 顎(関節)の痛み
- 歯ぎしり
- クリック音
- 咬合異常
- 下顎運動に伴う軋轢雑音
- 顎を動かせない
などが考えられます。
歯の症状
CMD患者さんに多く見られる症状に、解剖学的な相関の見られない歯痛など、歯に症状が発現することがあります。
発生し得る症状として、
- 歯痛
- 歯ぎしり
- 低温および高温過敏
- 磨滅
- 歯頚の過敏
- 歯肉退縮
- 歯牙動揺
- 咬合異常
などです。
歯に解剖学的原因がない症状がある場合、CMDを疑う必要があります。
耳の症状
CMD患者さんは、そうでない人と比べて、耳に症状を持つ割合が極めて高いことが知られています。
発生し得る症状として、
- 圧迫感
- 聴力の減衰
- 耳のかゆみ
- 中耳炎
- 耳鳴り
- めまい
などです。
軟口蓋の筋である、口蓋帆張筋、口蓋帆挙筋、は、下顎神経によって支配されており、顎系との神経生理学的連絡が密な筋群です。
この筋群は、嚥下の際に、耳管を開閉します。
これらの筋群の活動が不全になると、中耳の換気障害が生じます。
この換気障害が長期におよぶと、先のような、耳の症状が起こります。
これらの症状が、さらに筋の緊張を強め、循環の停滞が生じるからと考えられます。
頭痛
CMD患者さんは、しばしば額またはこめかみの頭痛に悩まされます。
この症状は、筋緊張からくるものと考えられます。
これに関わる筋群が、神経支配活動の強化や局所的な筋活動などによって刺激を受け、症状を示すようになると考えられます。
目の症状
CMD患者さんでは、眼にも顎関節との位置的接近による刺激や症状が現れます。
発生し得る症状として、
- 眼の痛み
- 眼の細動
- 複視
- 光に対する過敏
- 眼球後部の圧迫感
- 流涙
などがあります。
のどの症状
喉の症状も、顎関節との機能解剖学的連絡と関連しています。
舌骨には、顎と喉との機能的な接続を形成する舌骨上筋および舌骨下筋が固定されています。
しわがれ声、発声のぶれ、詰まり感、嚥下障害、などの様々な症状は、この舌骨が影響していると考えることができます。
また、迷走神経(頚枝)は、のど全体に網羅されており、のどを神経機能的に結びます。
顔面神経は、舌骨上筋を部分的に神経支配するため、迷走神経と顔面神経は機能的にもつながっています。
この局所的な解剖学的経路に注目すれば、CMD患者さんが、のどに症状を呈することが説明できます。
発生し得る症状は、
- 喉の痛み
- しわがれ声
- 頻繁な咳払い
- 喉のつまり感
- 発語障害
- 声の変化
などが考えられます。
首の症状
CMD患者さんは、よく首の凝り痛みを訴えます。
三叉神経脊髄路核は、第2頚椎の高さまでまで達していますので、顎関節部と上部頚椎部の神経連絡が密接になっていることが原因の一つと考えられます。
発生し得る症状として、
- 首の凝り痛み
- 頚性頭痛
- 頚椎または肩関節の運動制限を伴う頚部の硬化
などが考えられます。
肩こり・腕や手指の痛み・しびれ
CMD患者さんは、肩こりを訴えることが多いです。
肩部の障害は、顎部の筋の変化によって、肩甲骨の機能的制御不全と直接的に結びつきます。
肩甲舌骨筋を介して、顎部と肩部の間には、直接の筋連結があります。
のど・くびの筋組織、および、腕神経叢からの神経構造は、解剖学的に極めて密接な位置関係にあり、このことから、それぞれが多重的な相互作用を持つことが説明できます。
よって、CMD患者さんでは、肩こりの他に、胸郭出口症候群から来ると考えられる、腕および手指の痛み・しびれの症状が出る可能性があります。