健康な膝関節を伸展していくと、最終伸展時に「screw home movement:SHM」と呼ばれる、下腿の外旋運動が起こります。
SHMは、不随意に起こる自動的な運動であり、これにより膝関節の安定性が増加します。
変形性膝関節症の患者さんでは、このSHMが起きないか、もしくは逆に内旋していまうことがわかっています。
変形性膝関節症の患者さんは、膝関節が完全には伸びない、という特徴がありますが、この膝関節の伸展制限に、SHMの逆転現象が関係しています。
SHMは、立位、荷重位では、健常者の場合、大腿骨の内旋運動に置き換わります。
しかし、変形性膝関節症の患者さんでは、大腿骨の内旋運動が起こりません。
この大腿骨が内旋できない主な原因が、骨盤の後傾です。
骨盤が後傾すると、運動連鎖で大腿骨が外旋し、それで内旋できないのです。
そうなると、膝を伸ばすためには下腿が外旋するしかないので、下腿を強引に外旋させてきます。
下腿が外旋すると、カップリングモーションで、下腿は外側に倒れてしまいます。
すると、O脚になります。
つま先が外を向き、足首がうまく使えなくなります。
歩行時、体を前に回転させるには足関節で回転しなければなりませんが、足関節の回転軸は、つま先が向いた方向に正対するようになっているため、つま先が外を向いていると足関節で回転できない、そこで、前足部をつぶして強引に内側に回すという運動戦略になり、その結果、足のアーチが潰れ、外反母趾になるのです。
SHMを作り出しているのは、前十字靭帯(ACL)や外側側副靭帯(LCL)の緊張です。
これらの靭帯の緊張は60歳代から落ちていくので、年齢が上がっていくほど、SHMが起こらず、膝も伸びなくなるのです。
変形性膝関節症の患者さんでは、これらの靭帯がうまく効いていないため、脛骨が前方に移動してしまっています。
それで膝が伸びきらない。
膝が伸びきらない歩行は、転倒しやすい歩行パターンです。
対策としては、まずは、前に出てしまっている脛骨を元の位置に戻してあげることです。
そして、SHMをしっかりアシストしながら膝を伸ばすように運動パターンを修正します。
あとは、骨盤をできるだけニュートラルな位置にもっていくことです。
この時重要になるのが、腸腰筋と多裂筋です。
腸腰筋と多裂筋が骨盤の傾きを決定しているからです。
とくに第三腰椎が本来の位置に来るようにすることが大事です。
L4、L5は、骨盤と一緒に動いていきますが、L3のところでしっかりと水平を維持する感じでがっちり固定されて、はじめて上部のコントロールが可能になります。
骨盤を後傾させてしまう原因として、股関節の不安定性も関係してきます。
股関節の安定性には、腸腰筋と閉鎖筋が大事で、肩のローテーターカフのように、大腿骨頭をギュッとしばるように安定させていますが、それが弱くなると、股関節がずれてしまいます。
その時、代わりに大腿直筋が働いて安定性を保とうとするため、骨盤は後傾してしまうのです。
端座位でSHMがうまく働くのに、荷重位でSHMがうまくいかない場合、股関節か足関節のどちらかに問題があるので、そこを修正するようにアプローチしていく必要があります。
変形性膝関節症の患者さんをはじめ、膝痛の患者さんにおいて、SHMを評価することは、非常に有意義であると考えています。
腰も膝も曲がってしまっている高齢者の姿勢制御・運動パターンを改善していくのは限界がありますが、この考え方は、若年者やスポーツ愛好家でも十分応用可能ですので、膝が痛いと訴える方では、アライメント評価とともに、SHMも評価して、股関節、足関節、骨盤、腰椎など、全身的に評価して、治療方針を立てながら治療していくことが有効である、と、OKでは考えています。