最近、よく、ストレスの多い現代人は、交感神経が緊張しがちなので、交感神経の緊張をゆるめ、副交感神経の働きを高めることが、健康にとって最善である、という話を耳にします。
そういうケースは多いことは確かだと思うのですが、話はそう簡単ではなく、必ずしもそうとは言えない、と考えています。
何でもかんでも、副交感神経が優位になればいい、というものではない、と私は考えています。
副交感神経が優位になりすぎると、体がだるい、やる気が起こらない、肥満、などの状態になります。
喘息においては、副交感神経が高まると、症状を悪化させます。(副交感神経は、気道を収縮させ、狭くします。)
交感神経と副交感神経は、シーソーのように、一方が上がれば、他方が下がる、というイメージをお持ちの方もいるかもしれませんが、そうではなくて、両者の関係は、パラレル(平行)です。
交感神経と副交感神経は、必ずしも、反対の作用で拮抗しているとは限らず、もっと複雑に機能しています。
交感神経と副交感神経のはたらきは、よく言われる、単に、アクセルとブレーキという役割だけでは、説明しきれないのです。
人間にとって、交感神経も副交感神経も両方ともが、バランス良く、よく機能している状態が、一番良い状態といえます。
たとえば、睡眠の状態が良くなく、なかなか寝付けない、眠りが浅い、途中でよく目が覚める、よく夢をみる、などの状態は、確かに、交感神経が優位になって、副交感神経がよくはたらいていない状態、といえますが、そういう方ほど、朝の寝覚めが悪く、起きるのが辛い場合が多いです。
これは、どういう状態かというと、交感神経機能が十分に機能していない、ということがいえます。
要は、交感神経機能のメリハリがなくなっている状態で、機能が落ちなければいけない夜に、機能が落ち切らず、朝、立ち上がらなければいけない時に、十分に上がり切らない状態です。
適度な交感神経の緊張は、人間にとって、不可欠で、交感神経がしっかり機能しないと、体がだるく動くのがめんどう、からだがシャキッとしない、やる気が起こらない、頭がボーっとして考えがまとまらない、などの状態になります。
うつ病の、午前中が特に調子が悪い、という現象にも関係している、と考えられます。
お灸(特に、直接灸)をすると、体がしゃきっとして、活力が出るのは、適度に交感神経が刺激され、その機能が適度に高まるからです。
一方、針は、副交感神経を高める効果に優れています。
(お灸でも、温灸は、この効果が高く、交感・副交感神経両者の機能を上げる優れものです。)
ですので、針とお灸をセットで行うことは、自律神経機能の面からみても、非常に、理にかなったことなのです。
ただし、鍼灸治療は、何も考えず、ただ単に、針をして、お灸をすればいい、という単純な作業ではなく、患者さん、お一人お一人の、体質、体調、自律神経機能の状態を、注意深くモニターしながら、施していく、という、かなり繊細な感覚が要求される行為なのです。
ですので、若くて、元気自慢、体力自慢の不調知らずの治療家の方よりも、
ほどよく、何らかのちょっとした不調があって、それを、自分自身で、日々鍼灸治療や、柔軟体操などで、調整しているような治療家の方が、患者さんの身になって、より繊細な治療をしてくれ、失敗する確率も少ない、と言えるかもしれません。