荷重位における身体各部の機能的な役割から、身体分節は、「passenger unit(運ばれる組織)」と「lokomoto unit(運ぶ組織)」に分類されます。
passenger unitは、頭部、頚部、上肢、体幹、骨盤、で構成され、lokomoto unitは、骨盤と下肢から構成されます。
運ばれる方が体重の約70%を占めるのに対して、運ぶ方が約30%となっています。
質量が大きいほど重力の影響を受けますが、体幹の質量は身体全体の50%を占め、身体の中で最も質量が大きいです。
これらのことから、立っている時に、運ばれる組織である体幹と骨盤と重心線との位置関係が、誇部組織である骨盤と下肢に多大な影響を及ぼすことがわかります。
変形性膝関節症患者さんの脊椎アライメントは、横から見ると、重心線に対して、後方へ偏位させ、重心補正のために下半身の中心軸を前方へ偏位させたものになっていることが非常に多いのです。
変形性膝関節症患者さんにおいて、膝関節内転モーメントの増加は運動力学的観点から考えると、重心線から関節中心点までの距離の増加に他なりません。
そして、その距離の増加の原因を紐解いていくと、身体の中で一番質量が大きい、passenger unitである体幹(上半身)の質量中心の後方偏位によるものであることがわかります。
また、それにより、体幹の土台である骨盤が運動連鎖により後傾位となり、膝関節屈曲・内反・内旋という運動連鎖が起こります。
骨盤は、passenger unitであり、lokomoto unitでもあります。
passenger unitから発生するエネルギーをlokomoto unitへ効率よく伝達し、床反力としてのエネルギーをpassenger unitへ効率よく伝達する中継点でもあります。
体幹と骨盤に存在する関節は、仙腸関節、椎間関節、肋椎関節、胸肋関節などであり、これらの関節の柔軟性を引き出すことで人体の静的・動的バランスが向上します。
よって、変形性膝関節症患者さんの治療において、局所的治療だけでなく、体幹および骨盤の動きの少ない関節の柔軟性を引き出すように関節を誘導し、体幹と骨盤のアライメントを修正し、重心線とpassnger unitの質量中心を近づけることで、膝関節の適合性と筋活動が高まり、症状を緩和させることができるのです。
また、体幹と骨盤に存在する先のような動きの少ない関節の動きが減少すると、上肢や下肢などの末梢の関節の動きが大きくならざるを得ず、筋や腱にオーバーストレッチ(過伸長)やオーバーコントラクション(過収縮)が起こり、上下肢の筋緊張が高くなった状態となります。
このことが変形性膝関節症を含む上下肢の関節の問題を引き起こすことになるのです。
つまり、脊椎を含む体幹や骨盤に存在する動きの少ない関節の動きを出してやることで、上下肢のオーバーストレッチ、オーバーコントラクションを取り除き、関節の適合性、筋緊張の正常化を図り、結果、膝関節を含む上下肢の関節の問題が改善するのです。
これが、カイロプラクティックやマニュアルセラピー、鍼灸などの脊椎などの中心部位へのアプローチで上下肢の関節症状が改善するメカニズムなのです。
当然、上下肢へのアプローチで脊椎などの中心部位の不具合を改善させることも可能であることは想像に難くはありません。