ストレスが耳鳴り発症の引き金や悪化要因になることが知られています。
ストレス負荷に対する防御反応として、感覚中枢の感受性が上昇することで、耳鳴りに対する注意や不安も増加し、それにより、自覚的に感じる耳鳴りの大きさはさらに悪化し、それがまたストレスを増大させる、という悪循環のループが存在する、と考えられます。
ストレスに対する生体反応として、「視床下部ー下垂体ー副腎皮質系(HPA系)」と、「自律神経系」が存在します。
ストレスが加わると、視床下部からCRFが放出され、これに応じて、下垂体からACTH(副腎皮質刺激ホルモン)の分泌が亢進します。
ACTHは、副腎皮質ホルモンであるコルチゾールを分泌します。
このHPA系を抑制的に制御しているのが大脳辺縁系の海馬です。
海馬には、コルチゾールに対する受容体が多く、コルチゾールの慢性的な過剰分泌は海馬の神経障害を引き起こします。
一方、聴覚中枢経路の一部は、大脳辺縁系、とくに扁桃体と連絡しています。
大脳皮質で耳鳴りを異常な音として判断した場合、海馬に記憶され、扁桃体では、不快や不安として認識されます。
扁桃体の反応はさらに、視床下部を通じてHPA系ストレスシステムを亢進させます。
HPA系の亢進が、海馬を障害し、耳鳴りに対する大脳での順応性が阻害される、と考えられます。
また、主観的なストレスと疲労は強い相関関係があることがわかっています。
耳鳴りの苦痛度は、自覚的疲労度に影響を受けるのです。
したがって、耳鳴り軽減の対応策としては、疲労回復や睡眠状態の改善によるHPA系ストレスホルモンのバランス是正、聴覚中枢と大脳辺縁系における悪循環を遮断することが大切で、これにより、耳鳴りに対する自覚的症状の軽快につながる、と考えられます。
鍼灸治療により、耳鳴りが軽減することがあるのも、鍼灸治療による自律神経系やHPA系を介したストレスマネジメント作用、疲労回復作用によるもの、と考えることができます。