最近注目されるようになった、股関節痛の原因の一つの病態として、FAI(股関節インピンジメント)があります。
太ももの骨の股関節にはまり込む部位が、骨盤側の受け皿に衝突して、関節唇、という、受け皿の周りを補強している部位が傷む、股関節唇損傷、を生じる病態をいいます。
以前は、日本人には、このFAIはほとんど存在しないと考えられていましたが、近年、日本人でも、これまで考えられていたより非常に多く存在するのではないか、と、考えられるようになってきました。
股関節唇損傷は、変形性股関節症のリスクが高く、いたずらに保存療法を続けていると、変形性股関節症が進行するのを予防できなくなります。
OKにも、股関節の痛みを訴えて来院される方が少なからずいらっしゃいますが、常に、保存療法である、はり・灸・整体・マッサージで、対応していっていいものか?を、しっかり判断する能力が求められます。
これは、股関節痛に限らず、あらゆる症状で言えることですので、まずは、現代医学的病態把握が重要となります。
東洋医学の知識が足りずに大失敗することは少ないが、現代医学の知識が足りずに大失敗することは、大いにあり得ることである、であるからには、東西両医学を学び続けることはもちろん大事だが、特に、現代医学の知識は、常に最新の知識を勉強し続ける必要がある、とおっしゃっている、東洋医学に造詣の深い高名なベテラン鍼灸師の先生がいらっしゃいます。
これからも、まずは、きちんと、現代医学的病態把握をしたうえで、このままお引き受けし続けていいものかどうか?を、常に頭に入れて、臨床にあたらなければならない、と考えています。
FAI(股関節インピンジメント)とは
FAIとは、股関節運動時に、寛骨臼辺縁部と大腿骨頚部ないしは骨頭頚部移行部付近が、繰り返しインピンジメント(衝突)することにより、寛骨臼縁の関節唇および関節軟骨に損傷が発生する病態です。
一般的に、変形性股関節症の原因の80%以上は、寛骨臼形成不全に起因していると日本では考えられていて、
原因がはっきりしている「二次性変形性股関節症」が圧倒的に多いという考えが主流です。
原因不明のいわゆる「一次性変形性股関節症」は日本人には少なく、あまり問題視されてきませんでした。
しかし、最近になって、FAIという病態が提唱されてから、これまで一次性と考えられてきた変形性股関節症の中に、FAIに起因する二次性変形性股関節症の方が少なからず存在する、ということが示唆されるようになってきたのです。
FAIの成因については、幼少期からのスポーツ活動との関係が深い、と言われています。
OKはり灸マッサージにも、股関節周辺の痛みを訴えて来院される方は、少なくありません。
股関節周辺に痛みがあるからと言って、即、変形性股関節症である、とか、FAIである、というわけではありませんが、股関節周辺の痛みを訴える人を見たら、まずは、変形性股関節症ではないか?FAIではないか?と疑ってみる、ということは必要である、と考えます。
実際、何例かで、「もしかしたらFAIではないか?」という方はいらっしゃいました。
こういう方は、通常、治療で良くなることが多い股関節周辺の痛みに、治療抵抗性を示していました。
つまり、なかなか良くならないのです。
股関節は、人体において、非常に大事な部位で、股関節の痛みや機能不全は、日常生活にかなりの不便を伴うことも多い病態ですので、FAIを含め、股関節に対する知識を豊富にすることは、治療家として必ず必要なことである、と考えます。
FAIの理学所見
FAIで最も重要な理学所見は、前方インピンジメントテストです。
股関節、屈曲・内転・内旋位でインピンジメントを生じさせ、疼痛を誘発するテストです。
このテストで、患者さんがかなり痛がる場合、関節唇損傷がある可能性が高いです。
股関節の痛みでOKはり灸マッサージに来院される方には、ルーティンで行っています。
自分の経験上でも、このテストでかなり痛がった患者さんは、治療に反応しにくかったです。
FAI=即手術、ではありませんが、手術しないとダメな場合もある、ということを頭に入れながら治療にあたることが肝要、と考えています。
FAIが疑われる症状
股関節唇損傷の患者さんで、よくある症状が、「Cサイン」といって、手でCの形にして、この辺が痛い、と言いながら、股関節前面と横を同時に押さえる、というものがあります。
Cサイン=FAIとは限りませんが、一応疑ってみる必要があります。
現在のFAIの認識度
FAIは、最近になって提唱された病態であるため、現在のところ、未だ世界的に認められた診断基準はありません。
それでも、日本股関節学会が、2015年に診断指針を提案し、2016年に改訂された変形性股関節症診療ガイドラインに、FAIが初めて記載されました。
こうした状況であるため、全ての整形外科医がFAIをきちんと認識してはいないのが現状のようです。
常に勉強を怠らない整形外科医でないとFAIの存在事態知らないかもしれませんし、日本人にはFAIはない、と思っている整形外科医も未だ多いようです。
整形外科医ですらこういった状況ですので、これ以外の我々のような鍼灸マッサージ師や、柔道整復師、理学療法士、などの、体を扱うコメディカルがFAIを知らないということは、十分にありえることです。
現在の日本におけるFAIの第一人者は、北九州の産業医科大学若松病院の内田先生です。
FAIの患者差さん、特にアスリートを中心に、積極的に股関節鏡下手術を実施されています。
しかし、この内田先生ですら、FAIは、まずは保存療法で対応するのが原則、と述べられています。
私(院長)も、股関節周辺の痛みで来院される患者さんを診させていただくとき、常にFAIの可能性を考慮しつつ、適応と限界を見極めれるように、これからも、精進していきたいと考えています。