アトピー性皮膚炎の日本での有病率は、30代までは10~15%で、患者数は、約40万人と推定されている、決して珍しくはない疾患です。
アトピー性皮膚炎の病因は、古くから、「免疫異常」と「皮膚バリア機能異常」の両面から考察されてきました。
そんな折、2006年、McLeanが「フィラグリン遺伝子」の機能喪失変異が、アトピー性皮膚炎の重要な発病因子であることを報告して以来、皮膚バリア機能の破綻により、経皮的感作機会が増加し、アトピー性皮膚炎や、他のアトピー疾患(気管支喘息・アレルギー性鼻炎など)を発症するという、皮膚バリア障害を第一義的な病因と考える、「皮膚バリア障害モデル」が大きく注目されるようになりました。
「フィラグリン」とは、皮膚の最外層である「角質」の主要な構成成分の一つで、このフィラグリンが欠乏した状態では、角質層ははがれやすく、経皮的な内と外との浸透性が上昇し、経皮水分喪失量が亢進します。
つまり、フィラグリンは、角層の形成にきわめて重要な蛋白質で、皮膚バリア機能の形成に大きく関与していることがわかってきました。
現在では、日本において、アトピー性皮膚炎の患者さんの20~50%にフィラグリン遺伝子の変異があると考えられています。
逆に言えば、このフィラグリン遺伝子の変異だけでアトピー性皮膚炎のすべてを説明できるわけではありません。
ただ、このフィラグリン遺伝子の変異の有無にかかわらず、中等度~重症のアトピー性皮膚炎の患者さんでは、フィラグリンの発現が減少していることがわかってきました。
フィラグリン遺伝子の変異を持つアトピー性皮膚炎の患者さんでは、変異を持たない患者さんと比べて、
1)2歳未満での発症が多い
2)他のアレルギー疾患を合併しやすい
3)成人型アトピーへの移行が多い
などの特徴があります。
アトピー性皮膚炎の患者さんで、フィラグリン遺伝子の変異の有無を把握する簡便な方法は、「掌紋増強」といって、手の平の皴が増強する所見がみられるかどうかを観察することです。
この「掌紋増強」が診られれば、フィラグリン遺伝子の変異があると90%の確率で判断することができます。
皮膚バリア機能に異常が起これば、各種抗原が皮膚内へ侵入し、生体は、非自己である外来抗原に対して免疫反応を起こします。
過剰な免疫反応は、自己障害としてのアレルギー反応につながります。
アレルギーとは、アレルゲンとよばれる抗原に対する過剰な免疫応答です。
アトピー性皮膚炎において、このアレルギー反応が起こるそもそもの発端が、フィラグリン遺伝子の変異による、角質層でのフィラグリンの発現低下による、皮膚バリア機能の障害である、という考え方が、現在の主流となってきているのです。