筋肉の緊張は、ɤ(ガンマ)系と交感神経系の神経支配によって制御されています。
筋の張力を制御する反射機構は、伸張反射が重要な役割を果たしています。
この伸張反射の調節には、α(アルファ)とɤの運動ニューロンが関係しています。
ɤ運動ニューロンの活動性が高まると、筋紡錘の感受性が高まり、伸張反射が亢進し、α運動ニューロンの活動を亢進させて錘外筋の張力を高めます。
これを、ɤバイアス、といいます。
一方の、交感神経ニューロンは、筋肉内の血管を支配するとともに、側枝を出し、錘外筋線維と錘内筋線維の両者を同時に支配しています。
そのため、骨格筋の張力は、交感神経系の興奮あるいは抑制によって影響を受けます。
これを、交感神経バイアス、といいます。
したがって、交感神経の活動性を亢進させるような状況は、筋緊張を亢進させます。
その代表が、寒冷刺激やストレスによる肩こりです。
筋や末梢神経が損傷された状況においては、交感神経の活動が筋肉α受容体数を増加させ、著しく増加した求心性インパルスが肩こりを増強させます。
これが、「頚椎症」や「胸郭出口症候群」などで、頚椎神経根障害がある場合に、肩こりが誘発・増強されやすい理由です。
また、肩こり筋では、組織酸素飽和度および総ヘモグロビン量の優位な低下がみられ、すなわち、肩こり筋においては、うっ血や虚血の血液循環障害が存在します。
鍼灸治療により、筋緊張は明らかに軽減することが証明されています。
そのメカニズムとして、先ほどの、ɤバイアス、交感神経バイアス、の抑制により、錘外筋線維および錘内筋線維の両者の感受性を低下させ、筋張力を低下させたものと考えられています。
また、筋張力が低下したことにより、筋肉の血液循環も改善し、肩こり感が改善するものと考えられています。
当然、筋膜の緊張緩和も、同時に達成され、筋緊張、肩こり感の改善に関与していると考えられます。
鍼灸治療による筋緊張緩和作用は、即時に起こることから、これら神経系が関与していることは間違いありません。
大事なことは、解剖学的物質である「肩こり筋」を柔らかくする、というイメージではなく、「神経系の緊張緩和」という機能的側面にアプローチすることで、結果として肩こりが改善する、というイメージを持って施術することです。
筋肉は粘土ではないので、力づくで力学的にほぐす、のでは決してない、ということです。