当院には、自律神経失調状態の方が多く来院され、鍼灸施術により、改善される方は少なくありません。
なぜ、鍼灸施術により、自律神経失調状態が改善するのか?
教科書的に、「鍼灸施術は自律神経バランスを整える効果がある」と、まるでお経のようにとなえられてはいますが、科学的にそのメカニズムが解明されているわけではありません。
しかし、現実に、私の行う鍼灸施術で、確かに少なくない方が自律神経失調症状が改善しているのを体験していますので、鍼灸施術は自律神経バランスを改善する効果があるのは確かである、と言わざるをえません。
当院では、足部・骨盤・頭蓋骨・上位頚椎といった全身の関連や、体のゆがみに注目した施術を行っていますが、その経験と、これまでの研究から、下記の記事に書いたようなことが深く関係していると考えています。
OKはり灸マッサージの施術で自律神経失調症状が改善される理由
上記の記事では、交感神経や副交感神経の分布に着目しています。
背骨や骨盤、頭蓋骨にゆがみがあると、物理的に影響をうけてしまい、それによって、自律神経失調の症状が出るという考え方を述べています。
当院では、全身のゆがみを調整する鍼灸をしているので、自律神経失調症により有効な治療ができると考えています。
鍼灸だけなく、カイロプラクティック・オステオパシー・整体・理学療法領域でいうマニュアルセラピーの分野の視点も取り入れ、これらを広い意味で「整体」と、当院では表現させていただいておりますが、鍼灸施術を行う際にも、整体的視点から行うことが多いです。
鍼灸施術により、
- 施術前に評価した骨盤バランス
- 脊椎アライメントなどの骨格バランス
- 筋緊張バランス
- 皮膚・筋膜バランス
以上の三次元的バランスが、施術中からどう改善しているか?をモニターしながら施術しています。
また、自律神経失調症状と「首」との関係について、ここ数年で、様々な方が書籍などで指摘するようになっていますが、「OKはり灸マッサージの施術で自律神経失調症状が改善される理由」の記事で、このことについても触れています。
簡単に言うと、「首のこりが自律神経失調症状を招いている」というものです。
副交感神経では、脳神経である迷走神経が脳から出て首を通って多くの内臓機能の調節を支配している、交感神経では、星状神経節をはじめ、頚部に交感神経節が存在している、これらが首の筋肉がこることによって圧迫を受けて神経機能に異常をきたし、自律神経失調症状を招く。
また、上位頚椎の奥には脳幹が存在し、上位頚椎のアライメント異常や、関節機能異常が脳幹圧迫を招き、自律神経失調症状はもちろん、ホルモン機能異常、免疫機能異常を招く。
などが、主張されている仮説で、基本的に私はその通りだ、と考えています。
ただ、それらの中でも、今のところ主張されていない仮説も存在するのではないか?と、日々の臨床や勉強から感じていることが、「鍼灸施術により、脳脊髄液の循環機能が改善し、自律神経失調症状を改善させている」という仮説です。
手技療法の世界で、「頭蓋仙骨療法」というものがあります。
元はオステオパシーの分野から発展してきた療法で、「頭蓋骨は動く」ということが大前提となっている療法です。
現代医学では、脳脊髄液の循環に関しては、どんなに詳しい解剖学や生理学の本を見ても、ごく簡潔にしか記述されていません。
脳と脊髄は、頭蓋骨と脊柱管とのわずかな隙間にある空間を満たしている脳脊髄液により物理的衝撃を緩和している、脳脊髄液は脳の特定の部位で常に作られてその空間を循環している、というごく簡素な記述にとどまっています。
頭蓋仙骨療法では、この脳脊髄液の循環に合わせるように、頭蓋骨と仙骨が、かすかに連動して動いており、そのリズムや動きに異常が生じると、様々な症状を発症する、と考えられています。
ここで重要になってくるのが、「筋膜ネットワーク」です。
近年、手技療法の分野でも注目度が増してきた「筋膜」ですが、筋膜とは、筋肉を包んで関連した筋肉同士を繋げている膜組織で、全身の筋肉を網羅しているだけでなく、脳脊髄液を満たしている「脳脊髄硬膜」とも連結し、さらには、口から肛門に至る内臓被膜組織とも繋がっているといわれています。
皮膚と違い、筋膜組織は固いスジであり、伸縮性はほとんどないため、ある部分の筋膜が緊張、ねじれ、癒着、などを起こすと、全身に波及し、脳脊髄硬膜をも緊張させ、その結果、脳脊髄液の循環にも悪影響を及ぼし、そこに浮かぶように存在している脳脊髄の機能にも異常をきたすのではないか?という仮説です。
ちなみに、皮膚と筋膜の連動性は非常に密接であると考えています。
何故なら、鍼先を皮膚に接触させて回旋させるだけの施術で、全身の筋膜が緩むからです。当然、連動して、首周りの筋膜も緩み、頭蓋骨を包む筋膜も緩み、脳脊髄硬膜も緩んで、脳脊髄液の循環に好影響を与えているでしょうし、その影響で自律神経機能の改善も起こるでしょう。
これは、日々患者さんの肌に触れている我々のような施術家にしか実感できないでしょうが、確かにそのように変化しているのです。
鍼灸治療、特に、日本独特のソフトな刺激の鍼灸治療は、この「皮膚・筋膜」をターゲットにしてきたことは間違いありません。
これは、鍼灸治療を「気」の世界で語りたがる鍼灸師にも絶対に論破できない理論です。
なぜなら、「理論」ではなく、現実に起きている「現象」だからです。
気の流れと皮膚・筋膜の緊張・弛緩とは、同一の現象である、というのが私の見解です。当然、皮膚・筋膜連動と経絡も非常に関係が深いものといえるでしょう(あえて「同一のものである」とまでは断定しません、これらと頭蓋仙骨リズムが合わさったようなものが、いわゆる気といわれているものの正体でしょう)。
これにより、鍼灸治療のうさんくさい気の世界からの脱却が可能となります。
まだまだ研究の余地がある新しい「筋膜」の世界ですが、筋肉痛は、筋組織ではなく筋膜で生じていることは証明されています。
脳脊髄液の循環にしても、「水頭症」「脳脊髄液減少症」などで相当重度な症状が出ることはわかっています。
微妙な脳脊髄硬膜の緊張・弛緩により、脳脊髄という中枢神経機能が影響を受けることがあってもなんら不思議ではないでしょう。