中脳辺縁系ドパミンシステムと慢性疼痛
程度の差はあれ、慢性的な痛みに苦しむ人は少なくないです。
痛みには、生命の危険信号の役割がありますが、その役割がすでに終了しているのに、痛みが続く状態を、「慢性疼痛」といい、「痛み自体が病気」になっている状態です。
慢性疼痛の中で、特にその痛みの原因が特定されない痛みを、「非特異的疼痛」といいます。
「非特異的」とは、ひらたくいうと、「よくわからない」という意味です。
例えば、よくわからない慢性疼痛の代表的なものに、「線維筋痛症」があります。
また、多くの人が経験する「腰痛」ですが、慢性化して、慢性腰痛に苦しんでいる人も少なくないです。
この慢性腰痛の、実に85%以上が、実は原因がよくわからない「非特異的腰痛」といわれています。
なぜ痛むのか、どこが痛みの発信源なのか、詳細な検査をしても、「よくわからない」のです。
近年、このよくわからない慢性疼痛に、「中枢性の機能不全」が関係している、といわれるようになってきました。
痛みを抑制する機能の低下の原因はストレス?
その、中枢性の機能不全、を説明するメカニズムが、「中脳辺縁系ドパミンシステム」です。
中脳辺縁系ドパミンシステムとは、脳内で、中脳(脳幹の一部)の腹側被蓋野という部位から、様々な関係する部位に神経線維でつながっている、ドパミン回路(A10神経)をいいます。
この、A10神経系は、「快の情動系」といわれ、快感・快楽の状態にあるときに作動し、神経伝達物質のドパミンが放出されている状態になります。
ところで、人間には、「下行性痛覚抑制系」という機構が、生まれながらに備わっています。
痛み刺激が人体に加わると、それを抑えようとする働きが自然にはたらくのです。
この、「下行性痛覚抑制系」に直接的に関わっているのが、この、「中脳辺縁系ドパミンシステム」なのです。
先ほどの、ドパミンが放出される状態では、脳内モルヒネといわれる物質もたくさん作られる状態になり、これが「下行性痛覚抑制系」を刺激し、その名のとおり、中枢(脳)から「下行」して、脊髄レベルで痛み情報をブロックし、痛みが軽減するのです。
この、誰にも備わっている鎮痛機構が、何らかの原因で、機能低下を起こすと、慢性疼痛(痛覚過敏)の状態に陥る、というのです。
この、中脳辺縁系ドパミンシステムが機能不全に陥る最大の原因といわれているのが、「ストレス」です。
ストレス、それによる不安、恐怖、不快、抑うつ、などが、慢性疼痛を引き起こす、というからくりです。
すべてを、「ストレスのせい」で、片づけてしまうのも少し乱暴ですが、よくわからない痛みが続く原因の一つに、この中枢性の機能不全が関係しているのは、間違いなさそうです。
となると、それに対する対策を考える場合、例えば、肩がこる、腰が痛い、という場合でも、その痛む部位だけに目を向けるのではなく、中枢(脳)にターゲットを合わせることも必要になってくる、ということです。
鍼灸が痛みに効果があるのは中枢に働きかけるから
実は、鍼灸マッサージ施術が、痛みに速攻的に効果がある背景には、この中枢への効果、が非常に大きく関係しているのです。
このあたりに関係する、「線維筋痛症」「慢性腰痛」「鍼灸施術の中枢への作用メカニズム」などの詳しい内容は、また回を改めて記したいと思っています。
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