岡山市のクリニック併設の鍼灸治療院に勤務時代、右肩がある日突然痛くなって、腕が上がらなくなったという、70代の男性の治療を担当したことがありました。
この男性は、発症してすぐに近くの大きな総合病院を受診したところ、「単なる五十肩」とのことで、痛みどめとシップを渡されました。
しかし、いっこうに症状が治らないので、以前に、膝痛が鍼灸治療で良くなった経験をお持ちだったため、鍼灸治療を希望され、私が担当することになりました。
痛みはじっとしていっても、かなり強く、肩だけでなく、腕の方まで痛い状態でした。
それでも治療をすると、そのたびに少しずつ楽になり、根気よく治療を継続されました。
ただし、なかなかこちらの思うようには改善せず、右肩の痛みは随分マシになったものの、腕はなかなか上がるようにならず、そればかりか、両腕・両下肢の筋肉が痛いという症状も出てきました。
それでも、痛みどめが全然効かず、鍼灸治療をすると、幾分楽になるからということで、辛抱強く治療を継続されました。
そうして、1か月ほど経過した頃、今度は、突然右手がまるでグローブのように、パンパンに腫れ上がるという症状が出現しました。
さすがにこれは普通ではないと思い、すぐに併設のクリニックを受診してもらいました。
クリニックでの診断名は、「関接リウマチ」でした。
ただ、私は、その診断に、どうも納得がいかず、必死で医学書を漁って調べました。
すると、どうも色々な症状から「リウマチ性多発筋痛症」と、「RS3PE症候群」の合併ではないか?
と推察しました。
そこで、そのお医者さんに、そのことを伝えました。
そのお医者さんは、鍼灸治療に理解があり、私にとって、尊敬できるお医者さんで、たかだか鍼灸師である私の意見に、
きちっと耳を傾けてくれました。
そして、大学病院の専門外来へ紹介していただきました。
すると、私の予想どおり、「RS3PE症候群」との診断でした。
「RS3PE症候群」というのは、「リウマチ性多発筋痛症」の一症状で、ともにステロイドが劇的に良く効く病気であることは分かっていましたが、その男性がしばらくして、わざわざその後の経過を報告しに来院してくださった時は、非常にびっくりしました。
右肩の痛みもなくなり、腕はスーッと上がるし、ボクシンググローブのように腫れ上がっていた手も元通りになり、腕や下肢の筋肉の痛みも、すべて消失し、すっかり良くなっていたのです。
ステロイドを服用したら、次の日には、すべての症状が嘘のように、すべて改善したとのことでした。
「痛みどめが効かないなか、鍼灸治療で痛みを和らげてくれた よく病気を見つけてくれた」
と、お礼を言っていただいたのですが、私としては、リウマチ性多発筋痛症という病気を、もっと早くから知っていたら、この方はもっと楽になっていたのに、と反省しきりでした。
このように、現代医学の治療で、著効する病気を知らずに、下手に鍼灸治療でひっぱってしまうことは、
患者さんの不利益にしかなりません。
このことがあってからは、以前にも増して、現代医学の知識に少しでも多く精通するようにしようと努力しています。
もちろん、私はただの鍼灸マッサージ師ですので、診断権はありませんし、「あなたは○○という病気です」と言うこともできません。
ですが、限界はあっても、独学で、現代医学の知識を仕入れることは、やろうと思えばできるわけで、お医者さんのように診断することはできなくても、危険な病気を見抜いたり、お医者さんに見せるべき症状を、鑑別する能力を磨くことは、怠ってはいけないと考えています。
開業するまでの約10年間は、すぐ近くにお医者さんがいる環境でしたので、何か急なことがあっても、安心感があったし、
何かおかしいと思えばすぐ紹介できる環境でした。
開業した今では、自分ひとりですべて判断しなければいけないので、非常に責任が重いと、改めて実感しています。
患者さんに不利益を与えないように、常に緊張感を持って、仕事に当たっていかなければならないと考えています。